結論:対象は「2つの条件を両方満たす場合」だけ。ただし覚書ひとつで適用が始まる
2026年1月1日、廃棄物処理法施行規則の改正により、産業廃棄物の委託契約書に「第一種指定化学物質」に関する記載が義務付けられました。ただし、この義務はすべての排出事業者にかかるものではありません。化管法(PRTR法)上の届出をしている事業者で、かつ届け出た物質が委託する廃棄物に含まれている場合に限られます。
一方で、実務上見落とされやすい論点があります。施行前に締結した契約には経過措置が適用されますが、経過措置期間中に単価改定などで覚書を締結すると、原則として「契約更新」とみなされ、その時点から改正内容が適用されます。「更新はまだ先だから」と考えていた契約が、燃料費調整や料金改定の覚書によって前倒しで対象になるケースがあるということです。
本記事では、環境省が公表している「有害廃棄物の情報伝達省令改正に関するFAQ」の内容に基づき、対象判定・経過措置・契約書への書き方を実務手順として整理します。
何が変わったのか
改正されたのは、廃棄物処理法施行規則第8条の4の2(委託契約に含まれるべき事項)です。第6号に「ヘ」が追加され、次の内容の記載が求められるようになりました。
- 委託者が化管法上の第一種指定化学物質等取扱事業者である場合は、その旨
- 当該産業廃棄物に含まれ、または付着している第一種指定化学物質の名称
- その量または割合
記載を欠いたまま委託すると委託基準違反となります。なお、収集運搬の委託契約にも同じ義務がかかります。処分の契約だけを直せばよい、というものではありません。
自社が対象かを判定する — 条件は2つ、判断は事業所ごと
環境省FAQでは、次の2つを両方満たす場合に情報伝達義務の対象になると整理されています。
条件①:化管法の第一種指定化学物質等取扱事業者であること
判断基準は化管法と同一です。対象24業種に該当し、常用雇用者数や年間取扱量が一定以上の事業者が該当します。自社が該当するかどうかは、経済産業省のPRTR制度のページで確認できます。
条件②:届け出た物質が、委託する廃棄物に含まれていること
ここが判定の分かれ目です。環境省FAQは次のように整理しています。
- 届出をしていない第一種指定化学物質が廃棄物に含まれている場合 → 義務はかからない(ただし、処理業者と協議のうえ、処理工程に影響を与えると考えられる場合は情報提供が必要)
- 届出はしているが、廃棄物には含まれていない場合 → 義務はかからない
つまり「PRTR届出をしている=すべての委託契約を直す必要がある」ではありません。届出物質と、実際に委託している廃棄物の中身を突き合わせる作業が起点になります。
判定は「事業所ごと」に行う
化管法の該当性判断が事業所単位であるのと同様に、情報伝達義務がかかるかどうかも事業所ごとに判断されます。本社が対象でも、届出のない事業所から出る廃棄物の契約までまとめて改める必要はありません。多拠点で事業を営む企業ほど、この切り分けが対応工数を大きく左右します。
濃度1%(特定第一種は0.1%)未満は義務の対象外
量の閾値はありませんが、濃度には基準があります。第一種指定化学物質の濃度が重量で1%以上(特定第一種指定化学物質の場合は0.1%以上)のものが、本改正に伴う情報伝達の義務対象です。
これ未満の濃度であれば、本改正による情報提供の義務はありません。ただし、処理工程に影響を及ぼすなど適正処理に必要な情報である場合は、従来から存在する規則第8条の4の2第6号トにより情報伝達が必要になります。この点は改正前後で変わりません。
なお、容器やウエス、土砂などに少量付着している場合など、量の特定が困難なケースについてもFAQで触れられており、濃度が1%(特定第一種は0.1%)未満であれば義務はかからないと整理されています。
経過措置 — いつから対応が必要か
施行日に契約を結び直す必要はない
2026年1月1日の時点で既に締結されている契約については、契約更新までの間は改正前の規定が適用されます。施行日に合わせて全契約を巻き直す必要はありません。
環境省FAQでは、次回の更新が数年後になるような長期契約についても、経過措置の長さに関わらず、更新されるまでは情報伝達義務はかからないと明示されています(ただし、該当物質が含まれている場合は、経過措置期間中であっても情報伝達することが望ましいとされています)。
⚠ 単価改定の覚書は「契約更新」とみなされる
ここが最も見落とされやすい論点です。環境省FAQは、経過措置期間中に単価改定等に伴い覚書を締結した場合の扱いについて、次のように整理しています。
覚書に法的拘束力があれば、契約更新とみなされる。単価改定であれば法的拘束力を持たせる意図で覚書を締結するものと考えられるため、原則として覚書の締結は契約更新とみなされる、というものです。
燃料費や人件費の上昇を受けた処理単価の改定は、廃棄物処理の現場では日常的に発生します。「更新は再来年だから、それまでに準備すればよい」と考えていた契約が、単価改定の覚書を交わした時点で改正の適用対象になる、という事態が起こり得ます。
契約更新期日だけでなく、単価改定の予定もあわせて棚卸しの対象にしてください。
自動更新の契約はどう扱うか
改正省令の施行後に自動更新がなされる契約については、更新時に覚書を締結すること等により情報を伝達するのが基本の対応です。自動更新だから何もしなくてよい、ということにはなりません。
契約期間中に新たな物質が発生した場合
契約期間の途中で、新たに移動量等を把握すべき第一種指定化学物質が発生することもあります。この場合は、施行規則第8条の4の2第7項の規定により、各契約で定めている契約有効期間中の情報変更に関する伝達方法に基づいて対応します。契約書に情報変更時の伝達方法が定められているかどうかを、この機会に確認しておくとよいでしょう。
今は非該当だが、将来該当しそうな場合
第一種指定化学物質等取扱事業者でなかった事業者が該当することになった場合、義務がかかるのは「該当性が判明した時点」です。FAQでは、化管法に基づく移動量等の届出をした時点や、第一種指定化学物質を1t以上処理委託した場合が例として挙げられています。
あわせて、過年度の該当実績・本年度の事業計画・契約の時期などを踏まえ、該当することが予見される場合には、判明する時点を待たずにあらかじめ情報伝達を行うのが望ましいとされています。
契約書にどう書くか
WDSを添付し「別途、WDSデータシートに基づく」と記載してよい
物質名と量・割合を契約書の本文にすべて書き切るのは、品目が多い場合には現実的ではありません。環境省FAQでは、契約書に「別途、WDSデータシートに基づく」と記載して差し支えないと明示されています。
WDS(廃棄物データシート)は委託契約書に添付する廃棄物情報提供の様式で、WDSが契約書の一部として取り扱われる場合は公式な文書の扱いになります。契約書本体は簡潔に保ち、実質的な情報はWDSで管理する運用が取りやすい形といえます。
WDSは新様式でなくてもよい
WDSガイドラインは第3版に改訂されていますが、新版のWDS様式を使用することは必須ではありません。従来から使用しているデータシートが必要な情報項目を満たしていれば、継続して使用して差し支えないとされています。様式の入れ替えそのものを目的化する必要はありません。
濃度は幅を持たせて書いてよい
実務上、廃棄物中の濃度を単一の値で確定させるのは困難な場合があります。この点についてFAQは、幅を持たせて濃度を記載してよく、幅の持たせ方に規定はないとしています。排出事業者と処理業者の間で十分に相談して決める、という整理です。
有効数字についても、パブリックコメントでは「原則2桁」とされていたものの、様々なケースが考えられることからガイドラインでは有効数字の規定を設けないこととされました。測定精度をどこまで求めるかは当事者間の相談事項です。
濃度の算出方法とSDSの流用
濃度の算出方法として、FAQでは次の方法が挙げられています。
- 実測
- 原材料、資材等に含まれる対象物質の含有率を使用
- 類似施設での文献値
- 廃棄物発生工程ごとの経験値
また、SDSに記載の含有量をもとに記載することも可能です。実際に廃棄物に含まれる量とSDS記載の含有量が大きく乖離していないと考えられるのであれば、処理業者と協議のうえSDSの値を用いて差し支えないとされています。新たに全品目を実測しなければならない、というものではありません。
含有しない廃棄物に「含有なし」と書く必要はない
明らかに第一種指定化学物質を含有しない廃棄物について、契約書や覚書に「含有なし」と追記する必要はありません。対象外の契約にまで手を入れる必要はない、ということです。棚卸しの段階で対象外を切り分けておけば、実際に改める契約は想定より少なくなるケースが多いはずです。
守秘義務がある情報の扱い
WDSの全項目を記載する必要はありません。守秘義務により発生工程が記載できない場合でも、その他の項目で処理に必要な情報が伝達できればよいとされています。
PFOS・PFOAは届出していなくても情報提供が求められる
PFOS及びPFOA(PFOAの塩を含む)は化管法に定める第一種指定化学物質に該当するため、移動量等の届出を行っている事業者は本改正による情報伝達義務の対象です。
加えて環境省は、「PFOS及びPFOA含有廃棄物の処理に関する技術的留意事項」において処理業者が受入前に実証試験で分解可能性を確認することを推奨していることを踏まえ、泡消火薬剤などPFOS等を使っている可能性が高いものを処分委託する際には、移動量等を届け出ていない場合でも情報提供してほしいとしています。義務の範囲を超えますが、処理を断られるリスクを避ける意味でも押さえておきたい点です。
違反した場合の罰則
処分委託基準は、廃棄物処理法第12条第6項、施行令第6条の2第4号、施行規則第8条の4の2で規定されています。これに違反した場合、廃棄物処理法第26条に基づき3年以下の拘禁刑もしくは300万円以下の罰金、またはその併科が適用される可能性があります。
ただし、今回の省令改正に伴って罰則が強化されたわけではなく、従前のままです。罰則が適用される可能性のある具体例としては、排出事業者から処理業者に対して適正処理に必要な情報が提供されず、これを原因として環境保全上の支障が発生した場合が想定されており、該否の判断は自治体が行うとされています。
いま着手すべき棚卸しの手順
対応の実体は、契約書の文言修正よりも「どの契約が対象で、いつ手を入れるか」を洗い出す作業にあります。次の順序で進めるのが現実的です。
- 手順1:事業所ごとにPRTR届出の有無を確認する
判定は事業所単位です。全社一律で考えず、届出をしている事業所を特定します。 - 手順2:届出物質と委託廃棄物を突き合わせる
届け出た物質が、実際に委託している廃棄物に含まれているかを品目ごとに確認します。含まれていなければ義務は生じません。 - 手順3:濃度1%(特定第一種0.1%)以上かを判定する
SDSの含有量や原材料の含有率から推定して構いません。閾値未満であれば本改正の対象外です。 - 手順4:対象となった契約の更新期日を一覧化する
収集運搬・処分の両方が対象です。委託先が複数ある場合、契約本数は想定より多くなりがちです。 - 手順5:単価改定・覚書の予定を確認する
ここが盲点です。更新期日が先でも、単価改定の覚書を締結すれば原則として契約更新とみなされます。改定予定を把握し、そのタイミングで記載を追加する段取りを組みます。
多拠点・複数業者で運用している企業ほど、手順4と手順5で必要な情報が社内に散在します。契約書は拠点の総務が保管し、単価改定の交渉は購買が担当し、廃棄物の中身は製造現場しか知らない、という分断はよくある状態です。
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出典
- 環境省「有害廃棄物の情報伝達省令改正に関するFAQ」
- 環境省「廃棄物情報の提供に関するガイドライン(WDSガイドライン)第3版」令和7年12月
- 廃棄物の処理及び清掃に関する法律施行規則 第8条の4の2
※本記事は2026年8月時点の情報に基づく一般的な解説です。個別の契約における適否の判断は、所管の自治体または委託先の処理業者にご確認ください。